第1回公演 平田オリザ「暗愚小傳」

J-Theater日本人作家シリーズ参加作品

ドナルカ・パッカーン
『暗愚小傳』

作:平田オリザ
演出:川口典成(ピーチャム・カンパニー)

挨拶文

ニッポン人へ

高村光太郎の『暗愚小伝』を読んだとき、こう呟いたのを私は記憶している。――土下座して自由を出迎えた。自由は天から降って来た――

光太郎が戦後に書いた「暗愚小伝」という詩がある。太平洋戦争中、日本文学報国会に参加し、戦争賛美詩を発表し続けた光太郎が、そういった姿勢がどこから生まれて来たのか、その精神がどこから発生してきたのか、岩手県に籠って、詩に書き記したものです。この初めの詩が強烈です。「憲法発布(土下座)」と書かれた詩は、今にも続くような、多くの日本人の憲法認識を喝破しているように思われます。

憲法発布を記念して(憲法発布の翌日ですが)、天皇がやってくる。六歳の光太郎は上野公園に物見遊山、行列の最前へと行く。そして、やってくる天皇をなにげなくみようとすると、だれかに頭をおさえつけられ、だれかが言った。「眼がつぶれるぞ」

光太郎は「なぜ戦争詩を書いたのか」という問題を、この憲法発布時の一出来事から考えているのです。日本において、憲法は、そしてそこに書き込まれている自由は、天から降ってきた。しかも、国民は土下座をしてそれを有難がる。そう、国民の意思などそこにはない。自らが関わる、そして関わってしまっている様々な制度やシステムについて、自らの責任をもって判断・決定しなければならないという、息苦しいほどの近代的主体意識といったものはどこにも見当たらない。光太郎の苛烈なる自省の精神史は、おそろしいところから始まります。

高村光太郎のこういった精神史の表面を、「日常的風景」としてスケッチした平田オリザ氏の戯曲『暗愚小傳』。その上演を通じて、わたしたちの「自由」について考えたい。「日常的風景」の表面を、ただの表面として磨き上げる。そのときにこそ、忘却された精神史と、亡霊たちが、舞台上に引きだされ、あるいは憑りつくだろう。わたしたちはその舞台を眼差し、闘争しなければならない。

ドナルカ・パッカーン

日時

2015年10月29日(木)〜10月31日(土)

10月29日(木) 19時開演
10月30日(金) 15時開演/19時開演
10月31日(土) 13時開演

会場

下北沢「劇」小劇場(本多劇場グループ)

出演(五十音順)

浅井慎太郎
恩田匠
金崎敬江
河村啓史
篠崎旗江
新宮あかり
田辺誠二
比田幸穂
日野加奈愛
松本力
三浦小季
山田零

スタッフ

美術:アセファル・アーキテクチャー
主催:ドナルカ・パッカーン
協力:
本多劇場グループ
ピーチャム・カンパニー
JTBエンタテインメントアカデミー
錦鯉タッタ
制作:高岩明良(smimal)
「日本人作家シリーズ」プロデューサー:小林拓生

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